黒手 (くろて)
伝承地: 石川県能登地方
基本解説
トイレの中から毛むくじゃらの黒い手が伸び、尻をなでたり、人を引きずり込もうとしたりする妖怪。厠(かわや)の怪異の一つで、古くは不浄の場所に溜まった気が具現化したものとされます。
詳細解説
黒手(くろて)は、日本の伝統的な「トイレの怪異」の代表格であり、特に能登地方などで語り継がれてきました。夜、一人で厠に入っていると、便器の底の暗闇からぬっと毛むくじゃらの黒い手が伸びてきて、用を足している人間の尻を優しく撫でたり、逆に乱暴に掴んだりするという不気味な妖怪です。
多くの伝承では、この手は「熊のよう」であったり「猿のよう」であったりと毛深いのが特徴で、正体は歳を経たタヌキやカワウソが化けたものとも言われています。被害に遭った者は驚きのあまり転んでしまったり、重い病に伏せったりすることもあり、かつての人々にとって厠は異界と繋がる危険な場所であったことを示唆しています。
中には、この黒手を刀で切り落とした勇気ある若者の話も伝わっています。切り落とされた手は翌朝には獣の足に変わっていたり、あるいは逆に、夜中に「手を返してくれ」と化け物が屋敷を訪ねてきたりする物語へと発展することもあります。
薄暗いトイレの底にある闇は、常に私たちの無防備な瞬間を狙っているのです。
伝承・民話
石川県のある屋敷では、代々トイレに黒手が出るという噂があり、屈強な侍が待ち伏せしてその手を斬り落としました。数日後、老人に化けた妖怪が手を返しに来たため、侍がこれを返すと、お礼として商売繁盛の秘薬の作り方を教えてくれたという話が残っています。
出典・考証
`柳田國男『一つ目小僧その他』` `村上健司『日本妖怪大事典』`
伝承地マップ
※地図上の赤い円は、その妖怪の主な影響範囲または伝説の広がりを示します。